さて、鮒寿司である。
彦根市観光振興課発行のリーフレットの「おみやげ」の欄を見ると、鮒寿司は「日本三大珍味の一つ。鮒寿司は、千余年の製法の歴史を秘める我が国の寿司のルーツだといわれている」と紹介されている。
一般的に、「日本三大珍味」とはうに、からすみ、このわたであるようだが、まあ「三大○○」などと言うものは、得てして言った者勝ちである。
それにしてもこの紹介文、実物のあり様に一切言及していない、煙に巻いたような文章である。言及したらボロでも出るのか。
『発酵食品礼讃』(小泉武夫著、文春新書)によれば、「熟鮓に含まれている良質の乳酸菌や酪酸菌は生きた活性菌であるため、これを食べると整腸作用に効果があり、腐敗菌の繁殖を阻止する細菌群が多量に腸内に棲みついて腸を整える」のだという。
今流行のプロバイオティクスというやつか。
やるな、鮒寿司。
とりあえず、何事も食べてみないことには始まらない。
早速、開封。
おっかなびっくり開けてみたが、そんなに臭いは強くない。
鼻を近付けて嗅いでみると、シメサバくらいの酸っぱい臭いがする。ただ、遠くの方に生魚の凝縮された臭気を感じる。
今回は、代表的な食べ方をいくつか試してみることにする。
■そのまま
食感:
身はスジのようで歯応えがあり、噛み切れない。卵は口の中でホロホロと崩れていく。
味:
酢〆のキツい魚。鋭い酸味と、後味に魚臭さが残る。
海水魚と淡水魚の違いか製法の違いか、シメサバよりも野趣溢れる感じ。
■醤油をつけて
味:
酸味が若干抑えられ、やや食べやすい。醤油の旨味が加わって、荒ぶる野生が薄れた。
■醤油をつけてご飯の上に
味:
食べやすい。酸味、魚臭さともにさほど気にならない。
■お茶漬け
味:
温めることで酸味が立ち、さらに卵が溶け出すことで淡水魚特有のエグ味が広がる。今まで一極集中であったのが、全体がまんべんなく緩やかに鮒寿司に支配された感じ。お茶漬けにすると食べやすいという話だが、個人的に嗜好に合わない。
■発酵した飯と一緒に
味:
飯がとにかく酸っぱくて、梅干のよう。軽く涙ぐむ。
***
熟鮓が日本に伝わったのは飛鳥時代とも弥生期とも、縄文晩期だったとまで言われているようであるが、当時の人にしてみれば何年も保存のきく食品なんて夢のようなものだったのではないだろうか。
多少酸っぱかろうが臭かろうが、食べられることが先決だったのではないか。
今は何でも新鮮なまま食べられるから、風味に関してハードルが高いが、酸っぱさも結局は米酢のようなもので、そう考えるとそんな突飛な味でもない。
シュールストレミングはどこか悪ふざけを禁じえないが、鮒寿司は身内贔屓を含めてもどこか先人の知恵という感じがした。
伊達に千年以上続いていない。